LVMHによるティファニーの買収提案についての評価

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1. 本記事の目的

本記事では、高級ブランド世界最大手、仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン(以下LVMH)が、2021年1月に行った米宝飾品大手ティファニーの買収について、著者の個人的な評価を記載しています。

LVMHによるティファニーの買収提案について、第三者の立場としては、二つの根拠より私は良い評価を下している。一つ目の根拠としては、LVMHの買収提示価格がティファニーの内在価値と比較して割高である点を挙げる。二つ目の根拠は、ティファニーの買収という点において、交渉の実現性等を踏まえ、LVMHより有利な条件を提示する企業は存在しない点を挙げる。

2. 登場企業の紹介

今回の買収側企業であるLVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(MC:EN Paris)は、フランス・パリを本拠地とするコングロマリット企業である。ユーロネクスト・パリ上場企業で、世界最大のファッション業界大手企業体とされる。代表的なブランドとしては、ルイ・ヴィトンやディオールが挙げられる。

また、被買収企業であるティファニーは、アメリカを本拠地とする世界的に有名な宝飾品および銀製品を販売する企業である。

3. 本買収案件の概要と背景

まず、本買収案件の概要と背景を説明する必要がある。本案件では、LVMHによるティファニーの買収が完了すると、ティファニーの株主に対し一株あたり135.00$を現金で受け取る権利が与えられる。この135.00$という価格は、買収報道発表の直前である2019年10月25日の終値と比較し約37%のプレミアムがある。またこの価格は、買収報道発表時点での90日間の売買株数で加重平均した株価と比較して約52.5%、30日間の売買株数で加重平均した株価と比較しても約47.2%のプレミアムが乗る。買収価格決定の背景としては、まずLVMHがティファニー側に一株当たり120.00$の買収提案を行い、それをティファニーの取締役会が拒否したことから話が始まる。何回かの交渉の末、買収対価は125.00$から133.00$、最終的にLVMHの許容価格である135.00$と、当初の提案から15.00$も上乗せされた。

4. ゴールドマンサックス(以下GS)が行ったバリュエーションの妥当性

続いて、ティファニーの助言役であるゴールドマンサックス(以下GS)が行ったバリュエーションの妥当性について検証を行う必要がある。GSは、いくつかのバリュエーションにより、135.00$の買収対価が適正であると2019年11月24日開催の取締役会で述べた。まずGSは公開データを使用し、2014年1月1日から2019年11月20日までの期間に発表された米国の10億ドル以上の企業価値を対象にした買収案件で支払われたプレミアムの平均値と中央値の価格を導き出した。その結果、買収プレミアムは30%〜45%の範囲が妥当と判断された。この数値を買収提案公表前の株価である一株あたり90.26$に適用した場合に、一株あたり買収対価は117.00$から131.00$が妥当であると判断された。

次にGSは、ティファニーの事業に類似するハイブランド企業を13社選定し、各企業の内在価値を経営陣の予測数値やIBES Estimatesの数値に基づき、各企業の2019年11月20日現在の株価の終値に対する予測EBITDA倍率と予測EPS倍率を導き出すことで、類似企業比較を行った。その結果、GSは専門的判断と過去の経験から、企業価値をEBITDAの8.3倍から15.9倍の範囲であると算出した。この数値をティファニーの予測EBITDAに適用し、2019年10月31日現在の会社の純負債を差し引き発行済み普通株式総数で除したところ、一株あたり株価は65.00$から126.00$の範囲となった。加えて、2011年3月1日以降に発表された高級品およびハイブランド業界のターゲット企業が関与した企業買収時のEBITDA倍率の中央値を導き出すことで、類似取引比較を行った。その結果、EBITDA倍率の範囲は12.0倍から20.6倍となった。この数値をティファニーの予測EBITDAに適用し、2019年10月31日現在の会社の純負債を差し引き発行済み普通株式総数で除したところ、一株あたり株価は93.00$から160.00$の範囲となった。

最後にGSは、ティファニーの収支予測に基づき、2019年11月1日から2025年1月31日までの FCF と 2025 年1月31日における企業の残存価値を計算し、DCF法による企業価値を算出した。永久成長率の範囲を2.4%から4.2%に、割引率である加重平均資本コストの範囲を6.5%から7.5%とした結果、一株あたり株価は117$から149$となった。これらの分析により、GSは135.00$の買収価格が公正であると判断した。この135.00$という買収価格は多少割高であるものの、ある程度妥当な範囲内であると考えられる。

5. 予測数値の妥当性

しかし、これらの分析には、リサーチアナリストレポートとティファニーの経営陣が作成した予測数値が使用されている。そのため、その数値の妥当性を判断する必要がある。まず、一つ目のアナリストレポートの予測数値は、2019年12月5日の決算発表で開示予定の、需要低迷による第3四半期の純利益減少等の影響を完全に反映していないものである。そのため、予測数値は現状と比較して過大に評価されている可能性がある。二つ目の経営陣による予測数値は、経営予測の仮定において外部環境の変化を十分に考慮しておらず、非常に楽観的な部分があると考えられる。まず、同社の主要市場である中国の関税が五年間変化しないとの仮定は、現在の米中貿易摩擦や世界情勢を鑑み、妥当であると言い難い。加えて、経営予測の仮定では、なぜ売上高が毎年上昇していくのかが示されていない。委任状勧誘書面の中でティファニーは、オムニチャネル戦略の失敗や米中の経済鈍化、商品の競争激化等、独立企業として残る場合のリスクを多く挙げている。特にティファニーが商品を展開する高級品市場は、マクロ要因等の外部環境の変化により販売数が左右されやすい。そのような中、売上高が毎年順調に上昇する予測数値は非常に楽観的であり、妥当性がない。そのため、GSが妥当と判断した135.00$の買収価格は、割高であると判断できる。

6. LVMHに買収されることの妥当性

本買収が良い案件であると言えるもう一つの根拠である、LVMHに買収されることの妥当性は二つある。一つ目は、一株あたり135.00$での買収価格がLVMH以外に提案できないことである。LVMHから120.00$の買収提案を受けた際に、ティファニーの取締役会は買収に興味を持ちそうな四社に対し買収を提案している。しかし四社は、120.00$の提案より高い価格での買収に現時点で興味がないことを示した。そのため、135.00$という価格は、買収経験豊富であり、ある程度のシナジーを織り込むことができるLVMHのみ可能な提案であると考えられる。二つ目は、今回の買収案件の成功の可能性が高いことである。もし買収交渉が失敗した場合、ティファニーのブランド価値棄損や従業員のモチベーション等に悪影響を及ぼす可能性がある。その点、LVMHにおいては多額の現金や利用可能な信用枠等十分な財務リソースを有しているため、財務が原因での買収失敗を考えにくい。加えて、両社の間には買収の中止に対して違約金5億7,500万ドルが発生する等、厳しい条件の契約が存在する。そのため、両者ともに交渉締結へ最大限努力すると見られ、その点からも買収の失敗は考えにくい。

以上、LVMHの買収提示価格がティファニーの内在価値と比較して割高な点や、LVMHによる買収に妥当性がある点より、良い買収であったと私は評価を下す。

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1991年生まれ、東京生まれ東京育ち。
都内の某私立大学を経て、某シンクタンクの支社決算業務の主担当として従事。 3年半勤務後、某コンサルテインングファームでAIプロジェクトの企画書作成、某金融機関のチャットシステム実装のPMO、某政府系組織のシステム企画の要件定義等を経験する。
現在、都内の某国立大学院で経営学を学習中。加えて、大学院と提携しているコンサルティングファームと協業し、将来の公立病院の経営戦略をテーマにレポートを執筆中。
また、中小企業診断士として、週1~4程度の頻度でベンチャー企業の業務を手伝い、新事業企画の立案や収支シュミレーションの作成等、パワーポイントを中心とした資料作成や市の融資相談員を行っている。
趣味は星野リゾートと離島巡り。日本中回りたいと思っている。
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